意志の力に頼る習慣づくりの落とし穴
新しい習慣を始めるとき、多くの人は「月曜日から毎朝瞑想するぞ」と、気合いだけでスタートしようとします。でもこのやり方には、意図そのもの以外にきっかけがありません。いざ月曜の朝、バタバタと余裕のない状態がやってくると、決意はあっけなくその場の流れに負けてしまいます。
スタンフォード大学の行動科学者BJ Foggは、自身のTiny Habits(タイニー・ハビット)プログラムで4万人以上が参加した、史上最大規模の習慣形成研究を行い、問題の核心を突き止めました。それは、新しい行動には「アンカー(いかり)」が必要だということです。
習慣スタッキングの公式
Foggの公式は、あえてとてもシンプルに作られています。
「【いつもの習慣】をしたら、【新しい習慣】をする」
たとえばこんな形です。
- 朝のコーヒーを淹れたら、ビタミン剤を飲む。
- デスクに座ったら、3つの文章を書く。
- 夜の歯みがきが終わったら、深呼吸を5回する。
- 靴を履いたら、腕立て伏せを2回する。
アンカーになる習慣は、すでに毎日、確実に、何も考えずにやっていることです。新しい習慣は、そのアンカーの「自動化された力」を借りることができます。新しい行動を覚えておく必要はなく、「いつものあの行動の後にやる」ということだけ覚えておけばいいのです。
なぜアンカーが効くのか:脳のしくみ
習慣は、脳の大脳基底核に「一連の流れ」として記録されています。3年間同じ手順でコーヒーを淹れてきた人なら、運動と記憶のシステムにその流れが深く刻まれています。コーヒーの香りがした瞬間、その一連の流れが自動的に動き出すのです。
新しい行動を既存の流れの終わりにくっつけるということは、ゼロから新しい溝を彫るのではなく、すでにある溝に少しだけ書き足すことに近い作業です。だから脳への負担がぐっと小さくなります。
「どこにつなげるか」が大事なのも同じ理由です。「朝のうちに」よりも「コーヒーを淹れたら」のほうが強力なのは、具体的で、五感の合図(香り、カップ、注ぐ動作)と結びついているからです。「朝」のようなあいまいな時間帯にはアンカーがなく、結局のところ、ただの決意と変わりません。
「小さく始める」ことにも意味がある
Foggのもうひとつの大切な発見は、新しい習慣は、やる気がいらないほど小さくするべきだということです。「毎朝瞑想を始める」ではなく、「コーヒーを淹れたら、深呼吸を1回する」。
これは怠けではなく、設計です。やる気がなくても実行できる行動は、実際に続きます。続けば繰り返され、繰り返されればやがて自動になります。毎日30秒だけの瞑想は、いずれ自然に5分に育っていきます。単なる行動ではなく、「瞑想する人」というアイデンティティが育っていくからです。
一方、週2回30分の瞑想を2週間だけやってやめてしまったら、後には何も残りません。
良いアンカーの選び方
アンカーには向き不向きがあります。良いアンカーの条件は次のとおりです。
- 頻度が高い:少なくとも1日1回は起きること
- 場所や流れが近い:新しい習慣と同じ場所、同じ行動のまとまりの中にあること
- 安定している:予定が変わっても消えないこと(「通勤前に」というアンカーは、旅行に出ると途切れてしまいます)
弱いアンカーの例は、「起きたら」(範囲が広すぎる)、「昼休みに」(場所が日によって変わる)、「ストレスを感じたら」(不定期なうえ、その感情状態では新しい行動をする余裕がなくなりがち)などです。
Nimeaでの習慣スタッキングの使い方
Nimeaで習慣を追加するとき、リストの中の別の習慣をアンカーとして設定できます。アンカーの習慣を「完了」にした瞬間、つなげておいた習慣が次のおすすめとしてすっと表示されます。アプリが無理強いすることはありません。ちょうどいいタイミングで、そっと目の前に出してくれるだけです。
スタッキングの記録が30日以上たまると、Nimeaはアンカーありの習慣とアンカーなしの習慣で、達成率がどう違うかを見せてくれます。ほとんどの場合、アンカーありの習慣のほうが良い結果を出しています。どんな説明よりも、自分のデータがいちばん説得力を持ってくれるはずです。
出典: Fogg, B.J. (2019). Tiny Habits: The Small Changes That Change Everything. Houghton Mifflin Harcourt. Fogg Behavior Model: behaviourdesign.org.