意志の力が最後には負けてしまう理由
悪い習慣を断つときの一般的なイメージは、こうです。欲求を感じる、それに耐える、勝つ。歯を食いしばって我慢し続ければ、いつか欲求は消える、というものです。
このモデルには、構造的な弱点があります。意志の力には限りがあるのに、欲求のほう、特に深く染みついた習慣への欲求は、1日に何十回でも押し寄せてくるからです。20回のうち19回勝てたとしても、負けたその1回で、習慣の回路はまた強化されてしまいます。
より効果的なアプローチは、1980年代にワシントン大学の心理学者 Alan Marlatt が生み出し、その後の数十年にわたる依存症研究の中で磨かれてきました。このアプローチは、欲求と戦うことを求めません。欲求をただ観察することを求めるのです。
核心となる気づき:欲求は波である
Marlatt は、患者たちが繰り返し語るある現象に気づきました。渇望は一定の強さで続くわけではない、ということです。行動に移すかどうかにかかわらず、渇望は高まり、ピークに達し、そして引いていきます。多くの場合、10〜20分ほどのあいだに。
彼が選んだたとえは、サーフィンでした。波を止めようとする人はいません。波には乗るものです。波が生まれ、頂点に達し、過ぎ去っていくのを見届ける。欲求はあなたを飲み込みません。あなたの中を通り過ぎていくだけです。
この視点の切り替えが強力なのは、「大変なことになる」という思い込みを取り除いてくれるからです。多くの人は欲求を感じると、「今すぐ応じないと、どんどんひどくなる」と考えます。アージサーフィンは、別のストーリーを教えてくれます。「これは10分ほどで終わる、体の中の出来事。前にも経験した。ピークが来て、過ぎていくのを見届けよう」と。
やり方をステップごとに
- 欲求に気づく。言葉にしてみましょう。「今、スマホをチェックしたい/タバコを吸いたい/Instagramを開きたいという欲求が来ている」。名前をつけることで前頭前野が働き、感情をつかさどる脳の反応が少しだけ和らぎます。
- 体のどこで感じているかを探す。どこに感じますか。胸の締めつけ、手のそわそわ、あごのこわばり。渇望の「対象」ではなく渇望という「体の感覚」に注意を向けることで、ずっと扱いやすくなります。
- 行動せずに観察する。感覚が高まっていくのを、ただ眺めます。抑え込むのでも、戦うのでもありません。レーダー画面に映る雨雲を眺めるように、見守るだけです。
- ピークと下り坂を見届ける。ほとんどの欲求は5〜7分でピークを迎え、15〜20分でほぼ消えていきます。何度か波に乗ってみると、「この波は必ず引いていく」と体で信じられるようになります。
- 記録する。何が欲求の引き金になったか(時間、場所、気分、していたこと)を記録していくと、自分だけの渇望マップが少しずつでき上がります。パターンが見えれば、断ち切ることもできるのです。
研究が示していること
アージサーフィンは主に禁煙と物質使用の分野で検証され、確かな結果を残しています。2014年のランダム化比較試験(Bowen ら)では、アージサーフィンを中核に据えたマインドフルネスに基づく再発予防プログラムが、標準的な再発予防や通常治療と比べて、12か月後の追跡調査で有意に優れた結果を示しました。
近年の研究では、このテクニックは行動面の依存にも広がっています。ドゥームスクロール、過食、SNSへの強迫的な没入などです。仕組みは同じで、刺激と反応のあいだに「観察の窓」をはさむことで、条件づけられたきっかけへの自動的な反応を弱めるのです。
Viktor Frankl が語った「その空間」と同じもの
「刺激と反応のあいだには空間がある。その空間には、自分の反応を選ぶ力がある。その反応の中にこそ、私たちの成長と自由がある。」
この言葉は、精神科医 Viktor Frankl(ヴィクトール・フランクル)のものとしてよく引用されます。アージサーフィンは、その「空間」を臨床の場で形にしたテクニックだと言えるでしょう。
Nimea での取り入れ方
Nimea で手放したい習慣を登録し、欲求が来たことを記録すると、3分間の観察タイマーが始まります。気をそらすためではなく、波に乗るための「器」を用意するためです。呼吸をして、体の感覚を探し、ただ眺める。終わると短い渇望ログが表示されます。きっかけ、強さ(1〜10)、波に乗り切れたか、それとも応じてしまったか。
数週間続けると、このログはあなただけの渇望マップになります。パターンが浮かび上がってきます。午後3時のそわそわがスマホの引き金になっている。昼食後のエネルギー低下がお菓子の引き金になっている。一般的なテンプレートではなく、自分自身のデータの中にそのパターンがはっきり見えたとき、本当の変化が始まります。
参考文献: Marlatt, G.A. & Gordon, J.R. (1985). Relapse Prevention. Bowen, S. et al. (2014). Mindfulness-based relapse prevention for substance use disorders. JAMA Psychiatry.